米国自治体の成功例に学ぼう!〜実効性ある温暖化対策の姿〜(3)
米国北東部の州が連合して火力発電所からの二酸化炭素排出の規制を始めたRGGI(地域温室効果ガスイニシアティブ・The Regional Greenhouse Gas Initiative)については最近良く知られるようになった。また、産業界が州ごとに異なる規制に起因する競争力低下の懸念を持ち始めたことなどを受け、上院議会エネルギー天然資源委員会が4月初旬に、温暖化防止に向けた規制のあり方を協議する「気候会議」を開催したとの報道もあった(2006年4月5日読売新聞等)。
本特集(2005年8月号)で紹介したように、米国州レベルでは省エネルギー設備の導入や「エネルギースター」製品の購入の一部を補助するエネルギートラストの設置が進んでいる。今回はこうした州レベルの省エネに関する取組みを紹介したい。
(文責:増原直樹/環境自治体会議環境政策研究所)
●大気関係の政策に関する研究機関Center for Clean Air Policyの調査によれば、米国の16州でエネルギー効率化のための公益事業基金が設置、あるいは設置準備中という。他に再生可能エネルギーに対する基金も設置されているが、公益事業基金とは、電力料金レートそのものへの賦課金、または一時払い分への賦課金を基金として積み立て、家庭向け・商業向け、あるいはまれに産業向けのプロジェクトに投資される。詳細は州ごとに異なるが、このようにとりわけられた基金が商業向け・家庭向け温室効果ガス削減対策の基本に位置づけられている。
●ニューヨーク州では、州のエネルギー研究・開発機関が「Energy $mart(エネルギー・スマート)」プログラムを運用しており、毎年1億2400万ドル(142億6000万円。1ドル=115円で換算)をエネルギー効率化のために使っている(図参照)。

このプログラムは、商業・産業・家庭・州政府向け、あるいは低所得者向けのプロジェクトを含んでおり、具体的にはエネルギー監査やエネルギー効率向上投資の負担抑制、エネルギースター製品の割引などが実施されている。
●ニュージャージー州では、公益事業基金から毎年約9000万ドル(103億5000万円。同換算)がエネルギー効率化プログラムに費やされている。例えば、高エネルギー効率学校パイロット・プログラムとして、学校へエネルギー効率化システムや再生可能エネルギーシステムを導入するための補助金を提供しており、このプログラムは、新設の学校へシステムを導入する際の追加的費用をまかなうことをめざしている。
また、州レベルの公共施設において、エネルギー消費削減や、新築建築物のエネルギー効率設計を義務づけている例としては以下のようなものが報告されている。
●ニューヨーク州では、パタキ知事から、州のあらゆる建物において、2010年までに1990年レベル比で35%のエネルギー消費を削減することが指示された。諸機関は、省エネとエネルギー効率的製品の購入、そして新築・改修建築物のグリーン建築基準への適合という手法でこの目標を達成する必要がある。特に、新築あるいは改修される建物は一般的な建築基準に比較して20%以上のエネルギー効率化が求められる。
●メリーランド州では、2001年3月13日付けの行政命令によって、パリス・グレンデニング知事が、州の建物においてエネルギー消費を削減する様々な取り組みを義務づけた。その行政命令によって、高効率グリーン建築プログラムが設立され、州が建築する新たな設備、既存設備の改修、賃貸建築物に関して、エネルギー効率的な設計や建築、運用やメンテナンスが推奨されることとなった。具体的な目標としては、建築物における単位面積あたりエネルギー消費を2000年比で、2005年までに10%削減、2010年までに15%削減することが掲げられている。
●ワシントン州では、州法によって、州機関と学校区は、それぞれの施設に関するエネルギー調査と監査を実施し、その後エネルギー消費を最小化する改善策を実施することが要求されている。
●ワシントン州の中の大都市であるシアトル市では、グレッグ・ニッケルズ市長が全米の市長に気候保護同意書(ニュース前号、前々号を参照)への署名を呼びかけている他、自らの地域においても、次のような取組みを進め、成果をあげつつある。
―2000年、市営の電力会社「シアトル・シティ・ライト」の事業戦略においてネット(差し引き)で温室効果ガスの排出をゼロにすることを約束する決議(市議会)
―2002年、ピュージェット(ワシントン州北西部の地名)安全で清浄な大気エージェンシーとキング郡と共同で、CCP(ICLEIの気候保護キャンペーン)ワークショップを招致。ワークショップには、全米250以上の自治体職員が参加し、温室効果ガスの排出を削減するための戦略と直接的行動を重点とした議論がなされた。
―2002年、市の持続可能性・環境局(the Office of Sustainability and Environment)がシアトル市全域の温室効果ガスのインベントリ(排出目録)を完成させた。そのインベントリの主な知見は以下のとおり。
○90年から2000年の間に、市の事業に伴う温室効果ガス排出を相当程度(48%)減少させた。しかも、その減少傾向は継続している。
○もし市のリサイクル・省エネプログラムがなかった場合、2000年の市全体の排出量は従来の2倍に達していた可能性が高い。
○交通分野(自家用車、バス、トラック、飛行機、船舶)の排出量は市全体の56%を占める(全米の交通分野の比率は31%)。もっとも、市内で使われる 石炭が少なく、電力の温室効果ガス排出係数が低いことも影響している。
―2002年初頭、シアトル市は「北西部気候コネクション」に先駆けて参加。このコネクションは、ワシントン州、オレゴン州、アイダホ州、モンタナ州、ブリティッシュ・コロンビア州の団体と共同して実施する、気候保護とより健康で持続可能な地域づくりを両立させる新たなプロジェクトである。
―2005年2月16日、京都議定書の発効と同時に、全米の市長へ「京都チャレンジ」と題する気候保護同意書への署名を呼びかけ(他の市長とも共同)。
―2005年2月、地球規模の気候変動に対する地域の解決策を検討するために、「グリーン・リボン委員会」を選出。
この委員会から、以下のような提言が2006年3月に出されている。
○車への依存を減らすことで17万トンの温室効果ガス排出を削減
○燃料消費の効率性を高めると同時に、バイオ燃料を使用することで同じく20万トンを削減
○家庭とオフィスにおいてさらにエネルギー効率を高め、クリーンエネルギーを使用することで同じく31.6万トンを削減
これらの取り組みでシアトル市の7%(京都議定書でアメリカに割り当てられた目標値)にあたる68万トンの削減が可能としている。(以上)